「保護者の相談・保護者のカウンセリング」という記事では、少々トートロジー的な印象になってしまったかもしれません。要点としては、「保護者のかたとカウンセラー(相談員)がこどもさんや若い人の抱えている問題について話し合っていく際に、いつの間にか保護者のかた自身の心の傷つきを話すことがメインになり、それが長々と続くことは話し合いの対象となっているこどもさんや若い人が蔑ろになっている場合があります」ということでした。当たり前のことですけれど、意外とこの指摘は盲点となりうるのです。具体的には、保護者のかたがお話の中で、「あー私って◯◯なところがあるから、こどもにこうやって関わってしまっていたんだ!」と感情を伴って洞察される場面があったとします。この洞察自体は素晴らしいことです。そしてカウンセラー(相談員)も少しは保護者のかたのお役に立てた気もして、満足感らしきものを覚えると思います(「なんのこれしきでクライエントさんのお役に立てたとは思いません…」という職業意識もあるかもしれませんが)。繰り返しですが、この一連の保護者のかたとカウンセラー(相談員)との体験は決して悪いことではありません。しかしこれらの体験は、ある種の麻薬のようなところがあり、また味わいたくなって繰り返してしまうのです。
問題は長らくこの繰り返しに保護者のかたもカウンセラー(相談員)も気づかないことなのです。このように少々気難しいことを言ってしまいますが、それくらいこれらの体験は強力だし持続性があるのだということです。これが保護者のかたの生きづらさを解消するためのカウンセリングであれば何ら問題がないのです。しかし、本来保護者のかたとカウンセラー(相談員)で取り組んでいることは、こどもさんや若い人の生きづらさや困り感の解消や解決です。そこが今、乗っ取られてしまいそうだということが問題だと指摘しています。
さてこのような事態にならないためには、見取り図(仮説)が必要です。相談の方向性を示した見取り図(仮説)をもとに相談を進めていけば、折々の状況でルートが多少ズレていっても、時折見取り図(仮説)を確認することによって、間違えた点まで戻ることによってルートに復帰できます。実はこの見取り図(仮説)を作ることはとても時間とエネルギーがいることなのです。この見取り図(仮説)作成にもっとも必要なものは、保護者のかたのこどもさんや若い人に対する観察力です。次に必要なものは、保護者のかたの観察に心理学的な意味を見出す補助線を引いていくカウンセラー(相談員)の専門性です。こどもさんや若い人はただ今の自分の困り感なんて言わないし、言えないのです。言わないし言えないから、周りの大人が見とっていくしか有効なデータの収集方法はないのです。保護者のかたが、ものを言わないこどもさんや若い人を日常生活の中で親としてどう見ているか、そしてそれをどうカウンセラー(相談員)に報告するか。そして観察している保護者のかたをカウンセラー(相談員)がどうサポートし続けていくかが見取り図(仮説)の骨組だし、これこそが相談の骨組みなのです。これらの観察のプロセスをじっと続けていくと必ずやこどもさんや若い人の困り感がふと浮き上がってくる瞬間が来ます。その瞬間が来るまで保護者のかたが踏ん張って観察し続けることができるようにサポートし続けることがカウンセラーの役目です。この繰り返しまでが、相談やカウンセリングをコントロールして成し得る範囲のことです。
保護者のかたご自身の心の傷つきへの気づき、そしてその気づきがこどもさんや若い人の心に染み渡り親子関係が良くなっていくことは、保護者のかたのご努力への贈り物だと考えていいでしょう。
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